骨董や古本の店をのぞきながら歩く日の西荻窪は、途中で腰を下ろす場所が欲しくなります。そこで古い喫茶店の扉を開けるわけですが、同じ「レトロ喫茶」と呼ばれる店でも、コーヒーと菓子だけの店と、ナポリタンまで出す店とでは、もともとの成り立ちが違うかもしれません。
その違いを考える手がかりが、2021年5月まであった営業許可の区分です。品書きを眺めるとき、この話を知っているとちょっと面白い。
東京の世帯は喫茶店にいくら使っているか
総務省の家計調査に、外食の「喫茶代」という品目があります。2023年から2025年の平均で、二人以上の世帯の年間の喫茶代は全国で10,261円。都市別に並べると、東京都区部は16,270円で、名古屋市に次ぐ2位です。
| 順位 | 都市 | 喫茶代(年間、2023〜2025年平均) |
|---|---|---|
| 1位 | 名古屋市 | 16,431円 |
| 2位 | 東京都区部 | 16,270円 |
| 3位 | 岐阜市 | 14,663円 |
| 全国 | 二人以上の世帯の平均 | 10,261円 |
名古屋市との差は161円。全国の1.5倍を超える額を、東京の世帯は喫茶に使っています。外で一杯飲む時間が、東京の暮らしの中でそれなりの場所を占めているのかもしれません。
店を選ぶときに見るところ
| その日の目的 | 見るところ | 入る前に確かめること |
|---|---|---|
| 一人で本を読む | 席の間隔、照明の明るさ | 長居しても気兼ねない雰囲気か |
| コーヒーそのものを味わう | 品書きの豆の種類、淹れ方の案内 | カウンターがあるか |
| 街歩きの休憩 | 店の場所、入りやすさ | 短い滞在でも気楽か |
| 軽く食事もすませる | 軽食の品数 | ナポリタンやトーストがあるか |
四つの目的を全部満たす店を探すより、その日に何をしたいかを一つ決めてから店を見るほうが、迷いが減ります。
外から見える内装と、入口に出ている品書き。この二つで、その日の目的に合いそうかどうかはある程度見当がつきます。見当が外れても、次に使える店を一つ知ったことになります。
季節で品書きを変える店もあるので、目当ての一品があるなら、店の掲示や発信で確かめてから向かうと空振りが減ります。
それいゆの写真で見る、店の二つの顔
下の写真は西荻窪の純喫茶、それいゆのモーニングです。厚切りのトーストにアイスコーヒー。朝の時間に軽食を出す喫茶店の一例として置いておきます。

同じ店の夜の外観が下の写真です。紺色のテントの下に電球が灯っていて、朝に軽食を出す店が、夜には別の表情で通りに立っている。古い喫茶店を歩いて探すとき、時間帯によって店の見え方が変わるのも楽しみの一つだと思います。

店の詳しい話は、写真の下のリンク先にあります。
品書きに残る、2021年5月までの許可区分
食品衛生法施行令は、都道府県が施設の基準を定めるべき営業を第35条で列挙しています。今の条文は飲食店営業から始まり、「喫茶店営業」という区分はありません。この形になったのは令和3年(2021年)6月1日の施行からで、それより前の施行令には喫茶店営業という区分が別にありました。
2021年5月まで適用されていた施行令の第34条の2第2号は、喫茶店営業を「喫茶店、サロンその他設備を設けて酒類以外の飲物又は茶菓を客に飲食させる営業」と書いています。同じ号で、食品を調理して客に飲食させる営業は飲食店営業のほうに入っていて、第35条の一覧でも二つは別の号でした。
つまり、コーヒーと菓子だけの店と、ナポリタンやピラフまで出す店とでは、取っていた許可がもともと違っていた可能性があります。2021年6月からは喫茶店営業が飲食店営業に統合されたので、今の区分の名前からは区別がつきません。それでも、品書きの軽食の幅を見ると、その店がどんな形で始まったのかを想像する手がかりになります。
古い店の品書きや張り紙には、昔からの品名が残っていることがあります。内装だけでなく、品書きの組み立てにも時代が残っていると思って眺めると、一杯の時間が少し長く感じられます。
許可の話は店の味とは関係がありません。ただ、コーヒーだけで勝負してきた店と、軽食で人を呼んできた店とでは、店の空気の作り方が違うように感じます。どちらが好きかは、その日の気分で決めてよいことです。
混んでいるとき、相席のとき
席の少ない店では、混む時間に相席を頼まれることがあります。知らない人と同じ卓を囲むのが苦手なら、時間をずらすのがいちばん簡単です。
隣との距離が近い店では、電話や大きな声の会話は控えめに。荷物が多い日は、座る前に置き場所を見ておくと落ち着けます。
一杯で長く居るのが許される店かどうかは、店内の様子で判断するしかありません。席の間隔が広くて新聞や雑誌が置いてある店は、長居を前提にしていることが多いと思います。回転を大事にしていそうな店なら、混んできた頃合いで席を立つと気持ちよく使えます。
行ってみたら、の失敗
- 週末の昼に行って満席で、通りで待つことになった。平日や開店直後を選ぶ
- 支払いが現金だけの店で、手持ちが足りなかった。少し現金を持っていく
- 喫煙の扱いを確かめずに入って、席を選び直した。店頭の表示を見る
- 定休日を確かめずに向かって、閉まっていた。出かける前に店の発信を見る
- 代替わりや改装で様子が変わっていて驚いた。気になる店は思い立ったときに行く
個人で営む店は、営業日や時間を店ごとに決めています。出かける前にその日の案内を見るのがいちばん確実で、電話をかけるのも一つの手です。
喫茶店で気になること
レトロ喫茶店と一般的なカフェの違いは何ですか。
言葉に決まった定義はありません。昔からの内装や家具を残し、コーヒーと軽食を中心にした品書きの店をそう呼ぶことが多いです。2021年5月までの許可区分の話を思い出すと、品書きの幅から店の成り立ちを想像するという、もう一つの見方ができます。
一人でも入りやすいですか。
カウンターのある店なら一人でも入りやすいと思います。長居してよいかどうかは、店の雰囲気と混み具合を見て決めてください。
骨董品店や古着屋巡りと組み合わせるにはどうすればよいですか。
歩く予定の道筋の近くにある喫茶店を、休憩の場所として先に二つほど決めておくと、歩き疲れたときに迷いません。一つが満席でももう一つに回れます。
混雑を避けるコツはありますか。
席の少ない店は週末の昼どきに埋まりやすいです。平日や開店直後を選ぶと、落ち着いて過ごしやすくなります。
支払い方法で気をつけることはありますか。
使える支払い方法は店ごとに違います。現金だけの店に当たっても困らないよう、少し現金を持っておくと安心です。
写真撮影はしても問題ないですか。
内装を撮りたくなる店は多いと思いますが、ほかの客が写り込まないように気をつけてください。店が撮影について案内を出していればそれに従い、迷ったら一声かけるのがいちばんです。
子ども連れでも利用できますか。
店によって分かれます。喫煙の扱いは店頭の表示で確かめ、静かに過ごす雰囲気を大事にしている店かどうかも、入る前に見ておくと安心です。
長居してもよい店かどうかはどう見分ければよいですか。
席の間隔が広く、新聞や雑誌が置いてある店は、長居を前提にした雰囲気であることが多いです。席数のわりに客の出入りが多い店は回転を大事にしているので、店内の様子を見て判断してください。
一杯の前に
東京の世帯は喫茶に年16,270円を使っていて、西荻窪には古い喫茶店が残っている。品書きの軽食の幅からは、2021年5月までの許可区分を思い浮かべることもできる。そんなことを頭の隅に置いて扉を開けると、コーヒーを待つ間の眺め方が少し変わります。骨董の帰りに一軒、気に入ったらもう一軒。それくらいの気楽さでいいと思います。
出典
- 食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)現行第35条(飲食店営業から始まり、喫茶店営業の区分がないこと)と附則(令和3年6月1日施行)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000229
- 食品衛生法施行令 2020年6月1日施行版(次の改正の施行まで適用された版)第34条の2第2号(喫茶店営業と飲食店営業の定義)、第35条第1号、第2号(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000229/20200601_501CO0000000122
- 浜松市「営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設について」(「喫茶店営業」は「飲食店営業」に統合)(2026年11月3日確認) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/seiei/food/safy/kyokakaisei.html
- 総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2023年〜2025年平均)」外食「喫茶代」(全国、名古屋市、東京都区部、岐阜市の年間支出額と順位)(2026年11月3日確認) https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html (外食の表 https://www.stat.go.jp/data/kakei/zuhyou/rank13.xlsx)
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