同じ駅の店どうしでも、うな重の値段はそろいません。差の裏にありそうなのは、池に入れる稚魚の量に左右される仕入れ、国産か輸入か、それに器と量の組み方です。
水産庁が令和8年7月に出した資料には、この仕入れの事情が数字で書いてあります。店で値段を見て首をかしげる前に、ひととおり頭に入れておくと見え方が変わります。
稚魚の量で動く商売
うなぎの養殖は、海から川へ上ってくる稚魚(シラスウナギ)を捕まえて池で育てる方法です。卵から育てて出荷する形が主流ではないので、稚魚の獲れ具合が商売の出発点になります。養殖業者は採捕の状況や取引価格、成魚の在庫を見て、その年に池へ入れる量を決めています。国内の採捕が少ないと見込む業者が多い年は、海外からの輸入が増える傾向もあるそうです。
国内のシラスウナギの採捕量は、昭和50年代後半まで減少基調で、その後は概ね5トンから30トンの間で推移しています。下と上で6倍の開きです。もっとも、この増減には養殖の技術や業者の数の変化も影響している、と資料は断っています。
令和8年漁期(令和7年11月から翌年5月)に池へ入れられた稚魚は16.6トンで、平年並みでした。種苗の取引価格は2漁期続けて下がっています。この漁期の池入数量には21.7トンという上限も設けられていました。
稚魚の値段がそのまま店の値段にはならない
稚魚が安く入った年でも、うな重の値段にはご飯、たれ、炭、人件費、家賃が全部乗っています。仕入れの数字は店の値段を読むための背景で、値下げを予想する材料ではありません。
稚魚の取引そのものにも決まりが入りました。令和7年12月から、シラスウナギに水産流通適正化法が適用されています。採捕や取り扱いをする事業者の届け出と、漁獲番号の伝達、取引記録の作成と保存が求められる仕組みです。客の側に直接見えるものではありませんが、流通の記録が残るようになった、と受け取っておけばよいと思います。
育て方は二つ、出荷の時期も二つ
養殖の育て方には、11月から翌1月末に池入れして半年ほど育てる単年養殖と、2月から4月に池入れして1年以上育てる周年養殖があります。水産庁の資料では周年養殖が一般的とされています。
ただ、土用の丑の日に向けて、その年の漁期始めに池入れした「新仔」を出荷する単年養殖の事業者も一部あります。夏の品書きに「新仔」の字が出ていたら、この育て方の魚だと見当がつきます。
どちらがおいしいかは資料に書いてありません。ここは店の人に聞くか、食べ比べるしかないところです。
国内で育てている場所
2025年の道府県別の養殖生産量は、次のとおりです。
| 産地 | 養殖生産量(2025年) |
|---|---|
| 鹿児島県 | 7,342トン |
| 愛知県 | 4,279トン |
| 宮崎県 | 3,128トン |
| 静岡県 | 1,827トン |
| その他の道府県 | 981トン |
| 合計 | 17,557トン |
鹿児島、愛知、宮崎の3県を足すと14,749トン。全体の8割を超えます。品書きで県名を見かけたら、この表と照らしてみてください。産地の偏りがそのまま見えます。
養殖生産量のいちばん多かった年は平成元年で、39,704トンでした。2025年の数字はその半分より少ないことになります。
供給の7割超は輸入で、外食に産地表示の義務はない
2025年の国内供給量は63,598トンで、そのうち輸入が45,987トン、国内の養殖生産が17,557トン、漁業(天然)が54トンでした。加工品は原魚の重さに換算した数字で、最新年は第1報なので、確報で変わる可能性があります。養殖生産は同じ資料の供給量の図に17,757トンとありますが、内訳を足して63,598トンになるのは道府県別の表の17,557トンなので、そちらを使っています。
| 区分(2025年) | 数量 |
|---|---|
| 輸入 | 45,987トン |
| 国内の養殖生産 | 17,557トン |
| 漁業(天然) | 54トン |
| 供給量の合計 | 63,598トン |
供給量に占める輸入の割合は7割を超えます。食べる量そのものを数えた数字ではなく、国内に出回る量の内訳として読んでください。供給量のピークは平成12年の約16万トンで、近年は約6万トンで推移しています。
種類の話もあります。輸入されるうなぎには、ニホンウナギのほか、近年はアメリカウナギも含まれます。ヨーロッパウナギは平成19年にワシントン条約の附属書IIに掲載され、平成21年から貿易取引の制限対象になっています。
表示については、はっきりした決まりがあります。食品表示基準は第1条で、加工食品や生鮮食品を設備を設けて飲食させる場合を、第40条(生食用牛肉の注意喚起)を除いて適用の対象外にしています。第18条の生鮮食品の表示も「設備を設けて飲食させる場合を除く」とあります。スーパーで売る生の切り身には原産地の表示が要りますが、うなぎ店の品書きの産地は店が自分で出している情報です。
だから、書いていない店が何か隠しているという話ではありません。産地が気になるなら、聞けば済みます。答え方の具体さで店の仕入れへの関心が見える気がしますが、味の保証とは別です。
重と丼、品書きの言葉の読み方
うな重は重箱、うな丼は丼。器の違いはそこまでですが、同じ店で中身の量まで同じかどうかは店によって違います。値段の差が器だけなのか、うなぎの量やグレードも違うのか。注文の前にひとこと聞いておくと、思ったより小さい一枚が来て戸惑うことが減ります。

上の写真は西荻窪のうな藤のうな重で、赤い重箱にご飯を敷き、うなぎを並べた形です。重箱の大きさに対してうなぎがどのくらい覆っているかは店ごとに違うので、見た目の目安として置いておきます。
松・竹・梅や、並・上・特上のような段階がある店では、段階の差が何なのかを見ます。うなぎの量だけなのか、産地まで変わるのか。ここは店ごとに違います。
- 量 半尾、一尾、一尾半のどれか。段階の差が量だけという店もある
- 産地と種類 国産か輸入か、国産なら県名まであるか。書いていなければ聞く
- 焼き方と器 蒸しの工程を入れるかどうか、炭か、丼か重か。店の案内に書いてあればそれを読む
焼き方は店の流儀の話で、どちらが上という決まりはありません。蒸してから焼くか、蒸さずに焼くかで食感の方向は変わるので、好みがあるなら店の案内で確かめてから選ぶ。それで十分です。
天然の文字を見たら
2025年の国内の漁業生産は54トン。供給量63,598トンの中では、ほとんど誤差のような量です。品書きに並ぶうなぎは養殖が前提だと思って読むくらいでよさそうです。
「天然」とある店は、そのぶん希少なものを出しているわけで、値段も別の話になるはずです。ここは値段を見て決めるところだと思います。
こうなると残念
- 段階の差を聞かずに上を頼んで、量だけの差だった。段階の中身は注文の前に聞く
- 産地が書いていない店を避け続けて、入れる店がなくなった。外食に産地表示の義務はないので、聞けば答えてくれる店はある
- 混みそうな日に予約なしで向かって、待ち時間で疲れた。注文を受けてから焼く店は提供にも時間がかかるので、予約できる店は予約する
- 器の名前で量を思い込んだ。重と丼の中身が同じ店もあれば違う店もある
うなぎ屋で気になること
うなぎの旬はいつですか?
2025年の国内の漁業(天然)の生産は54トンにすぎず、店で出るうなぎは養殖が前提と見ておいてよさそうです。養殖は周年養殖が一般的ですが、土用の丑の日に向けてその年の漁期始めに池入れした「新仔」を出荷する事業者も一部あります。夏の行事として楽しむか、新仔を目当てにするか、くらいの受け止めでよいと思います。
うな重とひつまぶしは何が違いますか?
うな重は重箱にご飯とうなぎを盛った一品です。ひつまぶしは出し方と食べ方が店ごとに違うので、店の案内に従えば迷いません。産地や量の見方はどちらも同じで、段階の差が何なのかを聞いてから選んでください。
白焼きとかば焼き、どちらを頼むべきですか?
初めての店ならたれ付きのかば焼きが選びやすいです。たれを付けずに焼く白焼きは素材の味がそのまま出るので、産地や育て方を聞いて納得した店で試すと楽しめます。両方を少しずつ出す品があるかは店の品書きで確かめてください。
中国産・台湾産は避けたほうがいいですか?
水産庁の資料に、産地別の品質の話は出てきません。2025年の国内供給量63,598トンのうち輸入は45,987トンで、供給の7割以上が輸入です。外食には産地表示の義務がないので、気になるなら産地と種類(ニホンウナギかどうか)を店に聞くのが確実です。
予約は必要ですか?
注文を受けてから焼く店は提供まで時間がかかります。混みそうな日や週末は、予約できる店なら予約し、待ち時間の目安も聞いておくと落ち着いて食べられます。
うなぎ以外のメニューはありますか?
肝吸いや肝焼き、う巻きといった品を品書きに載せる店があります。品書きは店ごとに違います。串焼きで出す店もあるので、重や丼のほかに何があるかは店の案内で確かめてください。
品書きを開いたら
産地、量、焼き方、器。値段を読むときに見るのはこの四つで、仕入れの背景には稚魚の量という年ごとの波があります。高い店が良い店とは限らないし、安い店が手を抜いているとも限りません。段階の差が何なのかを一つ聞いて、あとは好みで選ぶ。うなぎ屋はそのくらいの付き合い方でいいと思います。
写真の店の記事は西荻窪 うな藤のうな重にあります。
出典
- 水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」(令和8年7月。シラスウナギの採捕量の推移、令和8年漁期の池入数量16.6トンと上限21.7トン、単年養殖と周年養殖、新仔、道府県別の養殖生産量、国内供給量の内訳、養殖生産量のピーク、アメリカウナギとヨーロッパウナギ、水産流通適正化法の適用)(2026年11月3日確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/unagi-279.pdf
- 水産庁「ウナギに関する情報」(2026年11月3日確認) https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/unagi.html
- 食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)第1条、第18条(設備を設けて飲食させる場合の扱い)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/427M60000002010
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