メニューの数字が切りのいい額ではなくなっている店があります。たとえば税抜980円の品は、10パーセントの消費税を含めて書くと1,078円。こういう端数が出るのは、消費税を含めた額で表示する決まりがあるからで、店が妙な値付けをしているとは限りません。
値段そのものが上がっているのも確かです。ただ、どの表示が決まりに沿ったもので、どの数字がどれくらい動いたのかを分けて見ると、会計のときに感じるもやもやは少し整理できます。
税込で書く、という決まり
消費税法第63条は、事業者(消費税を納める義務が免除される事業者を除く)が、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合(専ら他の事業者に行う場合を除く)に、あらかじめ価格を表示するときは、消費税額と地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない、と定めています。これが総額表示です。
条文のとおり、免税事業者は対象から外れています。小さな個人店で税抜の表示を見かけたとしても、それだけで決まりに反しているとは言えません。
国税庁のタックスアンサーNo.6902によると、義務の対象になるのは事業者が消費者に対してあらかじめ表示する価格です。価格を表示していない場合にまで税込価格の表示を義務づけるものではなく、口頭で伝えるような価格も対象になりません。店頭表示、チラシ広告、新聞やテレビの広告など、どの媒体で表示するかは問いません。
| 総額表示として認められる表示の例(標準税率10パーセントとして) |
|---|
| 11,000円 |
| 11,000円(税込) |
| 11,000円(税抜価格10,000円) |
| 11,000円(うち消費税額等1,000円) |
| 11,000円(税抜価格10,000円、消費税額等1,000円) |
| 11,000円(税抜価格10,000円、消費税率10パーセント) |
| 10,000円(税込価格11,000円) |
税込の額が一目で分かれば、税抜の額を並べて書いても構わない、という形です。最後の例のように税抜の額を先に書いて税込を括弧で添える書き方も認められているので、同じ品書きでも店によって見え方が違います。どちらの数字を払うのかだけ、間違えないようにしたいところです。
「安く見せる」表示には別の法律がある
総額表示は消費税法の話ですが、価格の見せ方にはもう一つ、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の決まりがあります。第5条第2号は、商品や役務の価格その他の取引条件について、実際のものや、同種や類似の商品を供給している他の事業者のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示で、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものを禁じています。
税込に見える書き方で実は税抜だった、という表示がこの条文にあたるかどうかは、個別の判断になります。客の側から見れば、払う額が一目で分かる書き方をしている店は安心して注文しやすい、というのが正直なところです。条文の全文はe-Gov法令検索で読めます。
2025年に、何がどれくらい上がったか
総務省統計局が公表した2025年平均の消費者物価指数(全国、2020年基準)は、総合指数が前年比3.2パーセントの上昇でした。食料は前年比6.8パーセントの上昇で、全体より大きく動いています。食料の内訳では穀類が21.9パーセント、菓子類が8.9パーセント、飲料が8.0パーセント。外食は4.0パーセントの上昇です。
| 区分 | 前年比 | 出典 |
|---|---|---|
| 消費者物価指数 総合 | 3.2パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
| 同 食料 | 6.8パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
| 同 穀類 | 21.9パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
| 同 菓子類 | 8.9パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
| 同 飲料 | 8.0パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
| 同 外食 | 4.0パーセント上昇 | 2025年平均、総務省統計局 |
外食の4.0パーセントは、食料全体の6.8パーセントより小さい数字です。どちらも消費者が払う値段の統計で、店の仕入れ値そのものではありません。それでも、食べ物全体の値段がこれだけ動いた年に外食は4.0パーセントだったと知ると、平均の話とはいえ、値上げの知らせの受け止め方は少し変わってきます。
仕入れに近い側の数字を一つ。農林水産省によると、輸入小麦の政府売渡価格は2026年10月期で1トンあたり70,020円(5銘柄加重平均、税込)、前期比12.0パーセントの引き上げです。パンや麺を出す店にとっては、材料の値段が国の公表する数字で動いている、ということになります。家賃の側については中央線沿線の飲食店経営における家賃相場感の傾向に書いてあります。
持ち帰りと店内で税率が違う
2019年10月1日から、酒類と外食を除く飲食料品には軽減税率の8パーセントが適用され、標準税率は10パーセントです。国税庁のタックスアンサーNo.6102によると、外食とは、飲食店業等の事業を営む者が飲食に用いられる設備がある場所において行う食事の提供をいい、軽減税率の対象に含まれません。持ち帰り用に容器に入れたり包装したりして売るものは飲食料品の扱いで、判定は飲食料品を提供する時点で行います。同じ品でも、店で食べるか持ち帰るかで税率が変わり、払う額が変わることがあるのはこのためです。
この先の話もあります。国税庁のタックスアンサーNo.6902(令和8年4月1日現在)には、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡について消費税率が引き下げられ、この引下げに当たって飲食料品の総額表示の特例が設けられる、と書かれています。国税庁・財務省のパンフレットでは、引き下げ後の飲食料品の税率は1パーセント(国・地方合計)で、対象は今の8パーセントの飲食料品と同じ範囲。外食は引き続き10パーセントの側です。
ただし、パンフレットによると、これは令和8年9月15日に閣議決定された大綱の改正案の内容で、法案が国会に提出され、審議を経て成立した場合のものです。ここで決まったと言い切ることはできません。実際にどうなるかは国税庁の案内で確かめてください。制度の紹介であって、税務の助言ではありません。
値札の側にも特例が示されています。税率引下げに対応した総額表示に直ちに対応することが困難な事情がある場合、令和9年2月1日から5月31日までの間は、飲食料品について、実際の支払額と誤認させない掲示等をしていること(誤認防止措置)を条件に、税率8パーセントまたは1パーセントでの総額表示が認められる、という内容です。成立すれば、持ち帰りや物販を扱う店では、この時期に値札と実際の支払額が一時的に違って見えることがあり得ます。レジで聞いてしまうのがいちばん早いと思います。
便乗値上げという言葉と、法律が見ているところ
値上げの知らせを見て、便乗ではないかと感じる人はいると思います。ただ、独占禁止法が見ているのは少し別のところです。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第2条第6項は、不当な取引制限を、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げるなどして、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、と定義しています。
読んでのとおり、条文が見ているのは「他の事業者と共同して」の部分です。一軒の店が自分の仕入れと家賃を見て値段を決めることまで、この定義が指しているわけではありません。同じ街の店が同じ時期に値上げをしていても、それだけで「共同して」決めたとは読めないはずです。個別の事案がどう扱われるかは、ここで言い切れることではありませんが。
値上げの知らせに理由が書いてあるかどうか
値上げの知らせに、原材料費や光熱費など理由が書いてある店と、額だけ書いてある店があります。どちらが悪いということはありませんが、理由があるほうが納得はしやすいです。
値上げのお知らせを見たときの考え方
食料の消費者物価は2025年平均で6.8パーセント上がり、輸入小麦の政府売渡価格は2026年10月期で12.0パーセント上がっています。理由が書いてある知らせなら、便乗と決めつける前に、その数字と照らしてみる。それで納得できる額なら、店の事情として受け止めてよいと思います。
店の側から見ても、国が公表している数字を理由として示せるなら、知らせは書きやすいはずです。小麦の政府売渡価格のように時期と率が公表されているものは、客にも背景が伝わります。
会計でつまずきやすいところ
- 税抜の大きな数字だけ見て注文し、会計で税込の額に驚く。品書きの括弧の中まで読む
- 持ち帰りのつもりで頼んだ品を店内で食べて、税率の違いに気づく。持ち帰りか店内かは注文のときに伝える
- 法案が成立した場合の令和9年2月から5月の特例の時期に、値札と支払額が違って見えて戸惑う。誤認防止の掲示を探すか、レジで聞く
- 理由の書いていない値上げを便乗と決めつける。公表されている数字と照らしてから判断する
- 免税事業者の店の税抜表示を違反だと思い込む。消費税法第63条は免税事業者を対象から除いている
品書きの数字で気になること
飲食店のメニューに税抜価格だけを書くのは違法か
消費税法第63条は、免税事業者を除く事業者が消費者にあらかじめ価格を表示するときに、消費税額と地方消費税額を含めた価格の表示を求めています。免税事業者は対象外です。個別の表示がどう扱われるかは、国税庁の案内で確かめてください。
2025年は外食もどれくらい値上がりしたのか
総務省統計局の消費者物価指数では、外食は2025年平均で前年比4.0パーセントの上昇でした。食料全体は6.8パーセントの上昇で、外食の上がり幅はそれより小さい数字です。
値段は同じで量が減った、というのも値上げか
払う額と受け取る量の比で見れば上がっています。景品表示法第5条第2号は、価格その他の取引条件について実際のものより著しく有利であると一般消費者に誤認される表示を禁じていますが、量の変更がこれにあたるかどうかは個別の判断で、ここでは言い切れません。
値上げの知らせに理由が書いてあると何が違うのか
客の側が公表されている数字と照らせることです。食料の消費者物価が2025年平均で6.8パーセント、輸入小麦の政府売渡価格が2026年10月期で12.0パーセント上がっていることを知っていれば、理由つきの知らせは納得しやすくなります。
なぜ多くの飲食店が同時期に値上げしているのか
店ごとの理由までは統計から分かりませんが、材料の値段が同じ時期に動いていることは背景の一つと考えられます。2025年平均の消費者物価指数は食料が6.8パーセント、穀類が21.9パーセントの上昇で、輸入小麦の政府売渡価格は2026年10月期で12.0パーセントの引き上げでした。同じ材料を使う店なら、値上げの時期が重なっても不思議ではありません。
会計のときに思い出すこと
税込で書く決まりは消費税法第63条、価格を著しく有利に見せる表示を禁じるのは景品表示法第5条第2号。2025年の食料は6.8パーセント、外食は4.0パーセント上がっていて、法案が成立すれば令和9年には飲食料品の税率と値札の特例の話が控えています。会計で端数を見たとき、この順番で思い出せば、上がった分がどこから来たのか見当をつけやすくなるはずです。見当がついたうえで通うかどうかを決めるほうが、気持ちよく払えると思います。
出典
- 消費税法 第63条(総額表示の義務、免税事業者の除外)、別表第一第一号イ(外食と持ち帰りの扱い)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/363AC0000000108
- 国税庁タックスアンサーNo.6902「総額表示」の義務付け(令和8年4月1日現在法令等。対象となる価格の表示、口頭の価格は対象外、認められる表示の例、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの飲食料品の税率引下げと総額表示の特例)(2026年11月3日確認) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6902.htm
- 国税庁タックスアンサーNo.6102「消費税の軽減税率制度」(令和元年10月1日から実施、標準税率10パーセントと軽減税率8パーセント、外食の定義、判定の時点)(2026年11月3日確認) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6102.htm
- 国税庁・財務省パンフレット「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げについて」(飲食料品1パーセント(国・地方合計)で範囲は今の8パーセントと同じ、外食は税率10パーセント、令和9年2月1日から5月31日までの総額表示の特例、令和8年9月15日閣議決定の改正案である旨)(2026年11月3日確認) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0026008-127_pamphlet.pdf
- 不当景品類及び不当表示防止法 第5条第2号(価格その他の取引条件についての不当表示の禁止)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000134
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 第2条第6項(不当な取引制限の定義)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000054
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)12月分及び2025年(令和7年)平均」(令和8年1月23日公表。総合3.2パーセント、食料6.8パーセント、穀類21.9パーセント、菓子類8.9パーセント、飲料8.0パーセント、外食4.0パーセント)(2026年11月3日確認) https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/nen/pdf/zen-n.pdf
- 農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の改定について」(2026年10月期、5銘柄加重平均(税込)1トンあたり70,020円、前期比12.0パーセントの引き上げ)(2026年11月3日確認) https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/260909.html