全国の空き家は900万2千戸。総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査で出た数字で、空き家率は13.8%、どちらも過去最高です。
この数字と、中央線沿線で見かける古い建物を手直しした飲食店は、別々の話のようでつながっています。元は住まいだった木造の家、倉庫、閉めた商店。そういう建物が店に変わるまでには客席からは見えない手続きがいくつかあって、その中身を知っておくと、店の造りの理由が少し見えてきます。
居抜きとは違う、骨組みから作り直す店
ここで言うリノベーション物件の店は、建物の骨格を残して内装や設備を作り直した飲食店のことです。前のテナントの内装や厨房をほぼそのまま引き継ぐ居抜きとは、間取りや動線から作り直す点が違います。
居抜きは工期と費用を抑えやすく、作り直す店は空間を自由に組めます。どちらが上という話ではありません。客の側から見れば、梁や建具が残っている店は元の建物の記憶ごと味わえる、というくらいの違いです。
空き家の数字を並べてみる
| 項目 | 令和5年調査 | 2018年調査との比較 |
|---|---|---|
| 空き家の総数 | 900万2千戸 | 51万3千戸の増加(2018年は848万9千戸) |
| 総住宅数に占める空き家の割合 | 13.8% | 過去最高 |
| 賃貸・売却用や別荘などを除いた空き家 | 385万6千戸 | 36万9千戸の増加 |
三つ目の行は、貸家や売り物件として出ているわけでも、別荘などでもない空き家の数です。ここが36万9千戸増えているのが、いちばん気になるところです。住宅の統計なので倉庫や店舗の空きは入っていませんし、全国の数字なので沿線の事情を直接示すものでもありません。それでも、使い道の決まっていない建物が増えるなら、店として使い直す話も出てきやすいのではと思います。
元が何だったかで、店の形に違いが出る
| タイプ | 元の建物の例 | 店の造りに出やすいこと |
|---|---|---|
| 古民家活用型 | 木造の一戸建て住宅 | 梁や間取りを残し、和の雰囲気を前面に出しやすい |
| 倉庫転用型 | 物置や作業場だった建物 | 天井が高く、開放感のある造りにしやすい |
| 商店街空き店舗型 | 閉店した個人商店 | 間口が狭く、限られた面積を工夫して使う |
| 集合住宅一室型 | アパートやマンションの一室 | 小規模な営業になり、管理規約で飲食店の営業が制限されることもある |
間口の狭い空き店舗なら、奥行きを生かす造りになります。倉庫は天井の高さが財産で、古民家は梁と建具。元の建物のどこを生かしたかを探しながら座るのは、料理が来るまでの時間の過ごし方として悪くありません。
集合住宅の一室は、建物の側の決まりで飲食店の営業が制限されていることがあります。小さな店なら席の数も限られるので、行く前に席の予約ができるかを見ておくと無駄足が減ります。
住まいを店にするときの「用途変更」
住宅や倉庫だった建物を飲食店にすると、建物の用途を変える扱いになります。建築基準法第87条第1項は、用途を変えて第6条第1項第1号の特殊建築物にする場合に、建築確認の規定を準用すると定めています(政令で指定する類似の用途の間の変更は除きます)。第6条第1項第1号の対象は、別表第一(い)欄の用途に使う部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるもの。飲食店は、建築基準法施行令第115条の3第3号で別表第一(四)項の用途に類するものとされています(床面積が10平方メートル以内のものを除く)。
国土交通省の報道発表によると、改正建築基準法は令和元年6月25日に施行され、200平方メートル以下の建築物の他用途への転用は建築確認の手続きが不要になりました。改正前の上限は100平方メートルで、それが200平方メートルに見直された形です。
| 用途変更する部分の規模 | 建築確認の申請 |
|---|---|
| 200平方メートル以下 | 不要(ほかの法令の基準は別に満たす必要がある) |
| 200平方メートル超 | 必要 |
席の少ない小さな店なら、この200平方メートルの枠に収まることもありそうです。ただ、個々の店の広さやどの手続きを踏んだかは、外からは分かりません。それでも2019年6月施行の改正で住まいを小さな店に変える手続きが軽くなったことは、古い建物の店を考えるときの背景として覚えておいていい話だと思います。
2025年4月からの、木造2階建ての改修
用途変更とは別に、建物の骨組みに手を入れる改修の扱いも変わりました。建築基準法第6条第1項第2号は、2以上の階数を有するか延べ面積が200平方メートルを超える建築物を対象にしていて、これらの大規模の修繕や大規模の模様替をしようとする場合も建築確認が要ります。
国土交通省住宅局の資料(令和7年2月21日時点)は、2階建ての木造戸建てなどで行う大規模なリフォームのうち、2025年4月以降に工事に着手するものは建築確認手続きの対象になると説明しています。ここでいう大規模なリフォームは、壁・柱・床・はり・屋根・階段のいずれかについて過半を改修するものです。キッチン、トイレ、浴室などの水回りだけのリフォームや、手すりやスロープの設置は、従来どおり手続きは要りません。
古い木造2階建てを店に作り替えるとき、床面積が小さくても、柱や床をどこまで触るかで確認申請が必要になることがある。これが2025年4月からの変化です。工期や費用の見通しにも関わるので、計画の早い段階で建築士に相談しておくのが安全な順番だと思います。
建築確認が要らない規模でも、飲食店を開くには別の手続きがあります。営業許可は保健所、火気や避難の設備は消防署が相談先です。ここに書いたのは制度の大枠で、個別の物件についての判断ではありません。実際の手続きは建築士、所管の特定行政庁、保健所、消防署に確かめてください。
客として、先に知っておくと助かること
古い建物を使った店は、段差や急な階段、狭い通路が元のまま残っていることがあります。ベビーカーや車いすで行くなら、店に先に聞いておくほうが当日に困りません。
席の配置が独特な店もあって、人数の多い集まりは前もって相談しておきたいところです。元が住まいなら、部屋の区切りがそのまま席の区切りになっていることもあって、大人数で一つの卓を囲めるかは店ごとに違います。
建物の来歴を紹介している店では、料理と一緒に空間の成り立ちも楽しめます。改修前の写真を店内に飾っている店や、公式サイトやSNSで工事の様子を載せている店もあるので、見つけたら行く前に眺めておくと、席に着いたときの見え方が変わります。
電話で聞いておくと早いこと
古い建物の店に電話をかけるなら、席の有無と一緒に「入口に段差があるか」「2階席しかないのか」「ベビーカーはどこに置くか」まで聞いてしまうのが早いです。建物の都合で変えられないことは、知ったうえで行くかどうかを決めるほうが気が楽です。
古い建物の店で起きやすい行き違い
- 地図アプリの写真だけで古民家だと思って行ったら、外観だけ残して中は新しい内装だった。改修の程度は店の案内で確かめる
- 急な階段のある2階席に通されて、小さな子どもを連れての上り下りに苦労した。席の位置は予約のときに相談する
- 予約なしで大人数で向かい、席が足りず入れなかった。古い住まいを改修した店は席数が限られていることもあるので、先に電話する
- 不定休の店に、休みの日に行ってしまった。営業日は公式サイトやSNSで当日に確かめる
- 撮影を断っている店で、席に着くなりカメラを構えてしまった。撮る前に一言聞く
古い建物の店で気になること
リノベーション物件の店は価格が高くなりやすいのか
一概には言えません。既存の建物を使うと取得費や賃料を抑えられる場合がある一方、配管や構造の手直しで改修費がかさむこともあり、価格への影響は店ごとに違います。
古い建物なので衛生面が心配だが大丈夫か
飲食店の営業には、建物の新旧にかかわらず食品衛生法にもとづく許可が要ります(第55条第1項)。許可は、施設が都道府県の条例で定めた基準に合っていると認められたときに出るものです(第54条、第55条第2項)。外観が古くてもこの決まりは同じなので、気になるときは保健所に聞いてみてください。
子連れやベビーカーでも利用できるか
建物の構造によっては段差や狭い通路が残っている場合があります。行く前に店へ聞いておくと、当日に困りません。
予約は必要か
古い住宅や小さな店舗を改修した店は、席数が少ないこともあります。予約を受け付けている店なら、先に予約しておくほうが確実です。
どうやってこうした店を探せばよいか
地図アプリで写真を見ながら探すほか、店の公式サイトやSNSで改修の経緯を紹介していることがあります。自治体の空き家活用の事例紹介に店が載っている場合もあります。
写真撮影はしてもよいのか
撮影の可否は店ごとに違います。ほかの客が写り込まないよう気を配り、店に一言確かめてから撮るのが無難です。
今後もこうした店は増えていくのか
先のことは分かりませんが、総務省の令和5年住宅・土地統計調査では全国の空き家が900万2千戸と過去最多で、既存の建物をどう使うかは引き続き課題です。2019年には200平方メートル以下の建築物を飲食店などに転用する場合の建築確認が不要になり、転用の手続きは軽くなっています。
営業時間や定休日は通常の店と違うのか
営業日や時間は店ごとに違います。少人数で回している店では不定休のこともあるので、行く前に公式サイトやSNSで最新の案内を見ておくと安心です。
改装前の建物の写真などは見られるのか
店によっては改修前の写真を店内に飾ったり、公式サイトやSNSで工事の様子を紹介したりしています。建物の変化を知ってから行くと、空間の見え方が変わります。
梁を見上げながら
空き家は900万戸を超え、使われていない建物を店として生かす動きは、これからも選択肢の一つであり続けそうです。飲食店への転用は200平方メートル以下なら建築確認が不要になり、2025年4月からは木造2階建ての大規模な改修に確認が要るようになった。この二つの決まりを知っていると、古い建物の店を見る目が少し変わります。来歴を知ってから暖簾をくぐると、街歩きの楽しみが一つ増えます。
出典
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計 結果の概要」(空き家900万2千戸、空き家率13.8%、2018年との比較、賃貸・売却用などを除く空き家385万6千戸)(2026年11月3日確認) https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第6条第1項第1号・第2号、第87条第1項(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 建築基準法施行令 第115条の3第3号(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- 食品衛生法(昭和22年法律第233号)第54条、第55条第1項・第2項(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233
- 国土交通省 報道発表「改正建築基準法が6月25日から全面施行されます」(令和元年6月25日施行、200平方メートル以下の転用で建築確認不要)(2026年11月3日確認) https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000789.html
- 国土交通省「建築基準法の一部を改正する法律案」概要(用途変更で確認が不要となる規模の上限を100平方メートルから200平方メートルに見直し)(2026年11月3日確認) https://www.mlit.go.jp/common/001237294.pdf
- 国土交通省住宅局「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について」(令和7年2月21日時点。2025年4月以降着手の大規模なリフォーム、水回りや手すり・スロープの扱い)(2026年11月3日確認) https://www.mlit.go.jp/common/001766698.pdf
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