酒屋の棚からビールを一本選んで、レジで会計をして、そのまま店の隅に置かれた台で開ける。角打ちと呼ばれる飲み方は、だいたいこういう形です。居酒屋のように品書きから頼む形とは違って、売り物の酒を買ってその場で飲む。酒屋が主で、飲む場所はおまけ、という順番です。
この順番の違いは、気分の問題というより免許と許可の問題でもあります。酒屋は酒を売る免許を受けていて、居酒屋はその免許の対象から外れているからです。仕組みを知っておくと、つまみが乾き物ばかりの店と温かい料理が出る店の差がどこから来るのかに見当がついて、店の見方が少し変わります。
酒を売る免許と、酒を飲ませる商売の線引き
酒税法第9条第1項は、酒類の販売業をしようとする人に、販売場ごとにその所在地の所轄税務署長の免許を受けるよう求めています。酒屋はこの販売業免許を持って酒を売っている店です。
同じ項にはただし書きがあって、「酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業については、この限りでない」とされています。自分の店の中でだけ飲ませる居酒屋は、酒を売る免許の対象から外れているわけです。国税庁のQ&Aも同じ説明で、持ち帰り用に酒を売るなら販売業免許が要るとしています。
角打ちは、この線のどちら側にいるのか。酒屋は販売業免許で酒を売り、買った人がその場で開けている、という形で見ると、居酒屋とは立っている場所が違うことが分かります。
| 店 | 酒税法上の位置 | 酒の出方 |
|---|---|---|
| 酒屋(角打ちを含む) | 販売場ごとに税務署長の販売業免許を受けて酒を売る(第9条第1項) | 棚の酒を買う。その場で開けられるかどうかは店の案内しだい |
| 居酒屋・酒場 | もっぱら自己の営業場で飲ませる業として、販売業免許の対象外(第9条第1項ただし書き) | 品書きから注文して、グラスや瓶で出てくる |
居酒屋のほうは、酒の免許が要らないからといって何の手続きもなく開けるわけではありません。食品衛生法の許可が別にあります。
つまみに火が入るかどうかで店が分かれる
食品衛生法第55条第1項は、第54条の営業を営もうとする人に、都道府県知事の許可を受けるよう定めています。第54条の営業は政令で決まっていて、食品衛生法施行令第35条の最初にあるのが飲食店営業です。東京都の案内では、営業許可の相談や申請は保健所が窓口になっています。ほかの地域も含めて、どんな書類が要るかは店のある場所の自治体の案内で確かめてください。
酒屋がつまみを出すとき、袋入りの乾き物や缶詰をそのまま渡すのと、台所で何か作って出すのとでは、話が変わってきそうです。条文から読める範囲で並べると、次の二つの形が考えられます。ただし2021年5月までの施行令は、飲食店営業を「食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業」と説明していました。調理さえしなければ関係ない、とは言い切れないわけです。どこからが許可の対象になるかは保健所に確かめる話なので、仕組みの読み方として見てください。
| 形 | 関わる免許・許可 | つまみの出方 |
|---|---|---|
| 酒屋のまま飲ませる角打ち | 酒類の販売業免許。飲ませ方によって営業許可が要るかは保健所に確認 | 売り物の袋菓子や缶詰をそのまま |
| 飲食店の許可も持つ角打ち | 酒類の販売業免許に加えて、食品衛生法第55条の営業許可。国税庁の手引は、同じ営業主体が飲食店と酒販店を兼ねるなら場所と仕入れ・売上・在庫の管理を分けるよう求めている | その場で調理したつまみも出せる |
温かいつまみが出てくる酒屋と、缶詰と柿の種だけの酒屋。どちらが上という話ではなくて、持っている許可で出せるものが変わるのだろう、と見ておくくらいでちょうどいいと思います。店の造りで決めつけず、品書きや掲示を見るのが確かです。
個人的には、つまみが乾き物だけの店のほうが角打ちらしいと思っています。酒を選ぶのが主役で、つまみは脇役という順番がはっきりしているからです。ただ、空腹で入ると長くはもたないので、その日の腹具合で選ぶのが現実的なところです。
居酒屋と比べたときの使い分け
免許の話を離れて、使う側の目線で並べてみます。店ごとに違うことなので、傾向として読んでください。
角打ちは酒屋の棚がそのまま品書きになります。銘柄を自分で手に取って選べるのは、居酒屋の品書きにはない面白さです。気に入った酒があれば、飲んだあとに同じものを買って帰れる。これも酒屋ならではです。
居酒屋は料理と席がそろっていて、腰を据えて飲めます。角打ちは立ったまま、酒屋の営業の合間を借りて飲ませてもらう形になりやすいので、長居するより一、二杯で切り上げる使い方が合います。
その日に何を求めているかで決めればいい話です。銘柄を見て回りたい日は酒屋へ、料理と一緒にゆっくりしたい日は居酒屋へ。腹ごしらえを済ませてから角打ちで一杯、という順番も悪くないと思います。
立ち飲み全般の空気感は立ち飲み文化の記事に書いてあります。スペイン風の立ち飲みはバルの記事のほうで、角打ちとはまた違う成り立ちです。
こんな人に向く、こんな日には向かない
向いているのは、酒そのものを選ぶのが好きな人。棚に並ぶ銘柄を眺めて一本決める時間を楽しめるなら、居酒屋より角打ちのほうが性に合うと思います。一人でふらっと入って短時間で帰りたい人にも、立ったまま飲む形はちょうどいいです。
向かないのは、料理を主役にしたい日と、ゆっくり座って話したい日。あと、酒屋の営業時間に合わせる必要があるので、夜遅くまで開いていることを当てにしないほうが無難です。開いている時間は店ごとに違うので、出かける前に店の案内で確かめてください。
はじめての一軒は、外から店内の様子が見える店にすると気が楽です。入り口から飲んでいる人の姿が見えれば、飲める酒屋だと分かりますし、空気も読めます。
初めての酒屋で飲むときの順番
- 入ってすぐ、飲める場所があるかを店の人に聞く。酒屋のすべてが飲ませてくれるわけではないので、聞いてから動く
- 棚を見て一本選ぶ。迷ったら店の人に好みを伝えて選んでもらう
- 会計の仕方を確かめる。先に払うのか、飲み終わってから払うのかは店ごとに違う
- グラスや栓抜きを借りる場所、空き瓶や空き缶を置く場所を見ておく
- 一、二杯で切り上げる。気に入った酒は買って帰る
会計の仕方を先に聞いておくのは、店の人にも自分にも楽です。酒屋のレジは小売の会計のためにあるので、飲んだ分をどう数えるかは店のやり方に合わせるしかありません。分からなければ、聞いてしまうのが早いです。
店の本業は酒を売ること
飲む場所は酒屋の店先を借りている形なので、買い物の客が来たら道を空ける、台を占領しない、声の大きさを控える。このあたりは細かい決まりというより、酒屋の営業の邪魔をしないという一点に尽きます。
こういうときに困る
- 飲める酒屋だと思って入ったら、小売だけの店だった。店先の掲示を見るか、店の人に聞いてから選ぶ
- 空腹で入って、つまみが乾き物だけで物足りなかった。食事を済ませてから行くか、調理したつまみが出る店を選ぶ
- 会計の仕方が分からず、何本飲んだか言えなかった。先に支払いの方法を聞き、空き瓶は数えやすい場所に置く
- 長居して、買い物の客の通り道をふさいでいた。一、二杯で切り上げる
- 持っていた支払い手段が使えなかった。使える支払いの方法は、入る前に店の表示で確かめる
酒屋で飲む前に気になること
角打ちは一人でも入りやすいですか
酒屋の店先で立って飲む形なので、一人で短時間の利用に向いた作りです。店の空気は店ごとに違うので、入り口から様子が見える店から試すと気楽です。
食事はしっかり取れますか
店ごとの差が大きいところです。売り物の乾き物や缶詰が中心の店もあれば、食品衛生法第55条の営業許可を持って調理したつまみを出す店もあります。食事が目的なら、調理したつまみのある店を選ぶか、食事を済ませてからの一杯にするほうが合います。
予約は必要ですか
酒屋の店先で立って飲む形は、予約という仕組みになじみません。入れるかどうかはその場の混み具合しだいです。人数が多いときは、先に店へ聞いてください。
女性一人でも利用しやすいですか
店ごとに違います。外から店内が見える店なら、入る前に雰囲気を確かめられます。短い時間で一杯という使い方なら、居酒屋より気楽に感じる人もいるはずです。
支払いは現金のみですか
店ごとに違います。使える支払いの方法は店の表示を見るか、酒を選ぶ前に店の人に聞いてください。
子連れでの利用はできますか
酒を飲むための場所で、立ったままの利用が基本なので、連れて行く前に店の方針を聞くのが確実です。店の判断に任せる場面です。
棚の前で一本選ぶところから
酒屋は販売業免許で酒を売り、居酒屋は自分の店で飲ませる商売として免許の外にいる。調理したつまみを出すには食品衛生法の許可が別に要る。この二つを知っていれば、角打ちの店がなぜ酒屋らしいのか、つまみの幅がなぜ店で違うのか、見当がつきやすくなります。あとは棚の前で一本選ぶところから始めれば十分です。
出典
- 酒税法(昭和28年法律第6号)第9条第1項(販売業免許、酒場・料理店等のただし書き)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000006
- 国税庁「【販売業免許関係】」Q3(酒場、料理店等と販売業免許、持ち帰り用の販売)(2026年11月3日確認) https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/03b/03.htm
- 国税庁「一般酒類小売業免許申請の手引」(令和8年9月改訂。飲食店と酒販店を兼業する場合の区分)(2026年11月3日確認) https://www.nta.go.jp/taxes/sake/menkyo/tebiki/01.pdf
- 食品衛生法(昭和22年法律第233号)第54条、第55条第1項(営業の許可)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000233
- 食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)現行第35条第1号(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000229 、2020年6月1日施行版 第34条の2第2号(飲食店営業の定義) https://laws.e-gov.go.jp/law/328CO0000000229/20200601_501CO0000000122
- 東京都保健医療局「営業許可・届出の概要」(保健所の窓口)(2026年11月3日確認) https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyokatodokede/youshiki.html
一杯のあとに読む記事
高円寺の個性派居酒屋、一人で入りやすい居酒屋、クラフトビールの店。角打ちの次の一軒を探すときの記事です。