業界・制度動向

中央線沿線の飲食店に見る営業時間短縮の傾向

午後10時。飲食店で働く人の時給は、この時刻を境に計算が変わります。閉店時刻が早くなった店、定休日が一日増えた店、昼と夜の間に長い中休みを取るようになった店。背景を考えるときに外せないのが、この時刻の線と、最低賃金の数字と、客単価が売上の伸びを押し上げている外食の現状です。

店が開いている時間が短くなるのは、客としては少し寂しい話です。ただ、数字を並べてみると、店を続けるための調整として読める面があります。どの店がなぜ短くしたのかまでは統計に書いてありませんが、出かける側にできる空振りの減らし方はあります。

午後10時から午前5時までの線

労働基準法第37条第4項は、使用者が午後10時から午前5時までの間に労働させた場合、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと定めています。厚生労働大臣が必要と認める場合には、その定める地域または期間について午後11時から午前6時までになります。

東京都の最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,280円です。東京労働局の発表によると、それまでの1,226円から54円の引き上げで、官報公示は2026年9月1日でした。単純計算で、深夜の1時間は1,280円に2割5分を上乗せした1,600円以上が最低のラインになります。

時間帯 時間あたりの最低額(東京都、2026年10月1日以降、単純計算)
午前5時から午後10時 1,280円
午後10時から午前5時 1,600円以上

客が少ない時間ほど、この差は重く見えます。終電前後に数人しか来ない時間帯を開けておくかどうかは、この数字を前にした店主の判断ということになります。深夜の一杯を楽しみにしている側からすると残念ですが、閉めるという判断を責める気にはなれません。

売上は伸びている、ただし中身は客単価

日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査、2025年の年間結果によると、外食全体の売上は前年比107.3%でした。内訳を見ると、客数は102.9%、客単価は104.3%。伸びの中心は客単価のほうです。協会は物価上昇などによる客単価の上昇で売上が前年を上回ったと説明していて、同時に消費者の節約志向が強まっているとも書いています。

同じ調査で「パブレストラン/居酒屋」の売上は前年比104.0%。全体の107.3%を下回っています。協会の説明では、日常は節約してハレの日の外食にはお金を使うという「消費の選別」が進んでいるとのことです。夜の飲みの業態の伸びが全体より小さいとなると、深夜まで店を開けておく理由は弱くなる、と見ることもできます。

客数も前年を上回っていますが、売上の押し上げ要因として協会が挙げているのは客単価のほうです。人の少ない時間を閉めて、来る時間に人手と仕入れを寄せる。そういう判断が出てくるのも分かる気がします。

倒産の数字が示していること

東京商工リサーチの集計では、2025年の飲食業の倒産(負債1,000万円以上)は1,002件で、1996年以降の30年間で初めて1,000件を超えました。このうち物価高を原因とする倒産は136件で前年比126.6%増、人手不足を原因とする倒産(後継者難を除く)は55件で前年比161.9%増です。人手不足のほうは前年の2.6倍にあたります。

資本金別では、1千万円未満の小規模な店が886件で全体の88.4%を占めています。小さな店ほど値上げがしにくく、食材費や人件費の上昇を吸収しきれない、というのが同社の見方です。民間の集計で、範囲も負債1,000万円以上に限られますが、小さな店の苦しさが数字に出ていることは読み取れます。

この数字と最低賃金の数字を並べると、営業時間を削って人件費を抑えるという判断がどこから出てくるのかは想像がつきます。少ない人数で長い時間を回すのは、楽ではないはずです。定休日を増やす、中休みを長くする、というのはその負担を減らす方法の一つです。

短くなり方にはいくつかの型がある

閉店時刻を早めるだけが営業時間の短縮ではありません。変化を型に分けてみると、こうなります。

型 どう変わるか 考えられる狙い
深夜営業の取りやめ 閉店時刻を早め、終電前後の営業をやめる 深夜帯の人件費と光熱費を抑える
中休みの延長 昼と夜の間の休みを長く取る 仕込みの時間と働く人の休息
定休日の新設・追加 週1日の定休を週2日にするなど 働く人の休息、辞める人を減らす
営業日の見直し 特定の曜日だけ開ける 採算の取りにくい曜日をやめる
予約制・時間限定への移行 予約のあるときや決まった時間帯だけ開ける 来る人数を読みやすくし、仕入れと人の配置の無駄を減らす

平日だけ深夜をやめて週末は続ける、といった組み合わせもあります。型の分け方は目安で、どの店がどの型にあたるかは、店の案内を見て判断してください。

本部の方針で動くチェーンと違って、個人店は店主の判断で営業時間を変えやすいはずです。個人店の多い街で、こうした変更に出会う機会が多く感じられるのはそのためだと思います。

空振りしないために

営業時間の変更は、店の公式サイトやSNSで知らされることが多いです。地図アプリやグルメサイトの表示は更新が遅れることがあるので、出かける直前は店の発信を見るのがいちばん確実です。

  • 出かける直前に、公式サイトか公式SNSのいちばん新しい投稿を見る
  • 地図アプリの営業時間は、そのまま信じない。店の発信と食い違っていたら店の発信を優先する
  • 中休みのある店は、昼の最終入店とディナーの開始の間に空白があることを頭に入れておく
  • 不定休の店は、行く日が近づいてからもう一度確かめる
  • 混む時間帯に行くなら、予約制に変わっている可能性も含めて、先に連絡を入れておく

閉店時刻と最終入店は別
閉店時刻より前に最終入店を締める店もあれば、ラストオーダーの時刻だけ書いてある店もあります。閉店時刻だけ見て向かうと、入口で止められることがあります。店の案内に最終入店やラストオーダーの時刻があれば、そちらを目安にしてください。

営業時間が短くなったのは、店を続けるための調整ということもあるはずです。開いている時間に合わせてこちらの予定を組むのが、好きな店に通い続けるいちばん確かな方法だと思います。少し不便にはなりますが、閉店してしまうよりはずっといい。

こうなると困る

  • 地図アプリの表示を信じて深夜に向かったら、閉まっていた。公式の発信を直前に見る
  • 昼の営業が終わる直前に着いて、中休みに入ってしまった。昼の最終入店の時刻を確かめる
  • 定休日が曜日固定から不定休に変わっていて、休みの日に行ってしまった。直前の告知を優先する
  • 予約制に変わった店に飛び込みで行って入れなかった。予約の要否を先に見る
  • 閉店時刻の少し前に着いたら最終入店を過ぎていた。閉店とラストオーダーの時刻を分けて見る

出かける前のひっかかり

なぜ深夜営業をやめる店が増えているのか。

店の数の増減を直接示す統計は見当たりませんが、考えられる背景はあります。労働基準法第37条第4項により、午後10時から午前5時までの労働には2割5分以上の割増賃金が必要です。東京都の最低賃金1,280円(2026年10月1日以降)で単純計算すると、深夜の1時間は1,600円以上になります。客の少ない時間ほど人件費と光熱費に見合う売上を確保しにくく、閉める判断につながりやすいと考えられます。

中休みが長い店は営業をやめてしまったわけではないのか。

中休みの延長は営業終了ではなく、昼と夜の間に仕込みや休息の時間を取る形です。ディナーの開始時刻は、店の公式の案内で確かめてください。

営業時間はどこで確認するのが確実か。

地図アプリやグルメサイトは更新が遅れることがあるので、店の公式サイトか公式SNSのいちばん新しい投稿を見るのが確実です。電話で聞けるなら、それも有効です。

定休日が不定期な店にはどう対応すればよいか。

不定休の店は、店の都合で休みを決めていることがあります。行く日が近づいてから、もう一度営業状況を確かめてください。

営業時間短縮は中央線沿線に特有の現象なのか。

最低賃金の引き上げも、東京商工リサーチが挙げる物価高や人手不足も、沿線に限った話ではありません。ただ個人店が多い街では店主の判断で営業時間が変わりやすく、変更が目に留まる機会は多くなるのかもしれません。

営業時間が短くなると料理の質は下がるのか。

上がるとも下がるとも、一概には言えません。中休みや定休日を増やす狙いの一つに仕込みの時間の確保があり得る、というところまでです。味は店ごとに確かめてください。

予約制に移行した店を利用する際の注意点は何か。

飛び込みでは入れないことがあるので、行く前に予約の要否と受付の方法を公式の案内で確かめてください。枠が埋まりやすい店もあるので、早めの連絡が安心です。

暖簾の前で思うこと

午後10時からの割増、1,280円の最低賃金、客単価で支えられた売上、1,000件を超えた倒産。並べてみると、閉店時刻が早くなった店の貼り紙は、続けるための工夫の跡に見えてきます。こちらにできるのは、出かける前に店の発信を一度見ることくらい。それだけで空振りはだいぶ減らせますし、開いている時間に通うのが、店へのいちばん簡単な応援だと思います。

出典

  • 労働基準法 第37条第4項(午後10時から午前5時までの労働に対する2割5分以上の割増賃金、厚生労働大臣が認める地域・期間は午後11時から午前6時)(e-Gov法令検索、2026年11月3日確認) https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
  • 東京労働局「東京都最低賃金を1,280円に引上げます」(時間額1,280円、54円の引き上げ、2026年9月1日官報公示、効力発生日2026年10月1日)(2026年11月3日確認) https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/news_topics/houdou/20260901chinginka_00001.html
  • 日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和7年(2025年)年間結果報告」(全体の売上107.3%、客数102.9%、客単価104.3%、パブレストラン/居酒屋104.0%、節約志向と消費の選別)(2026年11月3日確認) https://www.jfnet.or.jp/wp/wp-content/uploads/2026/01/nenkandata-2025.pdf
  • 東京商工リサーチ「2025年 飲食業倒産」(1,002件、1996年以降の30年間で初めて1,000件超、負債1,000万円以上の集計、物価高倒産136件で前年比126.6%増、人手不足倒産55件で前年比161.9%増、資本金1千万円未満886件で88.4%)(民間の集計、2026年11月3日確認) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202301_1527.html

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