業界・制度動向

飲食店のHACCP義務化とは?2021年6月完全義務化以降に変わったこと

2021年6月1日から、飲食店の衛生管理に一つ決まりが加わりました。HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理です。原則としてすべての食品等事業者が対象なので、中央線沿線のカウンターだけの店も、家族でやっている定食屋も、この中に入っています。

ただ、客の席から何かが変わって見えるかというと、ほとんど分かりません。厨房の中の話だからです。何が義務になって、守らないとどうなるのか。厚生労働省の資料と食品衛生法の条文に沿って見ていきます。

決まりの出どころは食品衛生法第51条

もとになっている条文は食品衛生法第51条です。施設の清潔保持やねずみ・昆虫の駆除といった一般的な衛生管理と、「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」について、厚生労働省令で基準を定めるとしています。小規模な営業者については、その取り扱う食品の特性に応じた取組でよい、という書き分けがここにあります。

同じ条の第2項は、営業者はこの基準に従って公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければならないと定めています。定めて、守る。この2段になっているところが制度の形をよく表しています。計画を作るだけでは足りません。厚生労働省は小規模な店向けに、手引書を参考に計画を作り、従業員に周知し、記録し、保存し、振り返ることを挙げています。

制度ができた流れは、2018年公布の食品衛生法改正でHACCPに沿った衛生管理が制度化され、2020年6月1日の施行と1年間の経過措置を経て、2021年6月1日から全面的に求められるようになった、というものです。HACCPという手法そのものはずっと古く、1960年代の米国の宇宙開発の中で、宇宙食の安全を確保するために作られました。厚生労働省の地方厚生局の資料にも、アポロ計画の中で開発された手法だと書かれています。

飲食店は「考え方を取り入れた」ほうに入る

制度化されたHACCPには、事業の規模に応じた2つの枠があります。

区分 対象 やること
HACCPに基づく衛生管理 大規模な事業者など コーデックスの7原則に基づく危害分析と管理計画
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理 飲食店営業・喫茶店営業など食品を調理する営業者、食品等の取扱いに従事する者の数が50人未満の事業場など 業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書を参考にした衛生管理

飲食店営業や喫茶店営業は、規模にかかわらず2つ目の枠です。従事者が50人未満の事業場も同じ。沿線の個人経営の飲食店も、ここに入ります。参考になるのは、公益社団法人日本食品衛生協会が作った小規模な一般飲食店事業者向けの手引書です。

この枠では、認証や承認を取る必要がありません。厚生労働省のQ&Aに「新制度のHACCPに沿った衛生管理の実施にあたって、認証や承認の取得は必要ありません」とあります。営業許可の基準(要件)にも衛生管理計画は含まれていません。

認証が要らないということは、店頭に「HACCP対応」のマークがなくても、それだけで未対応とは言えないということでもあります。掲示の有無で店を見分けるのは難しいと思います。

やることは計画と記録、それから見返すこと

では小さな店は何をするのか。手引書を参考に衛生管理計画を作り、計画どおりに実施し、記録を残し、記録等を定期的に振り返る。厚生労働省の資料の筋はこうなっています。

手引書の概要版(令和6年1月改訂)を開くと、中身はかなり具体的です。原材料の受入、冷蔵庫と冷凍庫の温度、器具の洗浄、トイレの洗浄、従業員の健康管理や手洗いといった項目があり、たとえば庫内温度は温度計で確かめて、冷蔵は10℃以下、冷凍は−15℃以下という目安が書かれています。メニューは調理の仕方で3つのグループに分けてチェックの方法を決め、1日の最後に結果を記録します。

令和6年1月の改訂では、岩手県の案内によると「毎月の振り返り」が規定され、振り返りの様式(別紙3)が追加されました。概要版には「定期的(1か月など)」とあります。店の実情に合わせて決めるところもあるので、最新の手引書で確かめてください。

もう一つ。営業許可の要不要にかかわらず、原則としてすべての営業者は食品衛生責任者を定めることになっています。厚生労働省のパンフレットにある決まりです。計画と記録を誰が見るのかを、先に決めておくと動きやすいはずです。

記録は、つけること自体より続けることのほうが難しいと思います。開店前の慌ただしい時間に温度計を見て一行書く。それを毎日。制度の重さは条文より、この積み重ねのほうにあります。

守らないとどうなるか

いちばん気になるのはここだと思います。厚生労働省のQ&Aによると、衛生管理計画を作っていない、内容に不備がある、作っても守っていないといった場合、最初に行われるのは改善のための行政指導です。指導に従わない場合は、改善が認められるまでの間、営業の禁止や停止などの行政処分が行われることがあります。

その先は罰則です。食品衛生法第81条第1項第3号は、第60条の処分に違反して営業を行った者を3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金としています。厚生労働省のパンフレットには「行政処分に従わず営業したときは、懲役又は罰金に処される可能性があります」とあり、これは発行時の言い方で、e-Govで見られる今の条文は「拘禁刑」です。

記録が一日抜けたらすぐ罰金、という順番ではありません。Q&Aの説明は「一般的には」という形で、指導、処分、それでも従わないときの罰則と段階を踏みます。ただ、段階があるから軽い話だというわけでもなく、処分に従わず営業を続ければ刑事罰の対象になります。

営業許可の取消しや営業の禁停止は食品衛生法第60条第1項に基づくもので、判断するのは都道府県知事等です。食中毒が発生した場合には直ちに営業の禁停止などの行政処分がとられることがある、ともQ&Aにあります。

流れを一本にすると
改善のための行政指導。従わなければ営業の禁止・停止などの行政処分。処分に違反して営業すれば拘禁刑又は罰金の対象。食中毒が出たときは、指導を待たずに直ちに処分となることがあります。

実施の状況は、保健所の食品衛生監視員による定期的な立入検査や、営業許可の更新などの機会に、衛生管理計画の内容や記録を確認する形で見られます。店の側から見れば、検査のときに計画と記録を出せるかどうかが一つの分かれ目です。

義務化のすぐあとに行われた民間の調査

一般財団法人サニクリーンアカデミーが2021年9月、義務化からおよそ3か月後に行ったインターネット調査(調理責任者・調理担当者521名)があります。従業員1〜5人の店で「導入している」と答えた割合は35.9%。従業員11人以上の店では約8割でした。

導入の課題の上位3つは「チェック項目追加などにより業務が増える」34.5%、「書類作成の手間がかかる」28.6%、「教育に時間がかかる」26.9%でした。記録と書類が、現場の負担として受け止められていたことが分かる数字です。

民間団体の、義務化直後の調査です。いまの導入率をここから推し量ることはできません。それでも、開店前の忙しい時間に記録を続ける大変さは、想像しやすいところです。

客の席から見えるもの、見えないもの

HACCPは店の裏側の運用の決まりで、認証マークの掲示が一律に義務づけられているわけではありません。だから食べに行っても、何が変わったかは分かりにくい。変わった点の一つは、保健所の立入検査などで計画と実施の状況が確認の対象になったことです。

原則すべての事業者に求められる基準なので、「HACCP対応済み」と掲げていない店が手を抜いている、とは見ないほうが公平だと思います。

客の側にもやれることはあります。持ち帰った料理の扱いです。店がどれだけ温度を管理していても、受け取ってから食べるまでの時間と置き場所で状態は変わります。弁当を受け取るときの注意はテイクアウト弁当の選び方、温度管理と受け取り時間で失敗しないコツに書いてあります。

店の側でつまずきやすいところ

  • 計画を作って壁に貼ったまま、記録が途切れる。Q&Aが挙げる「作っても守っていない」状態に当たる
  • 記録はつけているが、見返していない。厚生労働省の資料では、記録等を定期的に振り返るところまでが一続き
  • 行政指導を受けたあと、改善を後回しにする。従わなければ営業の禁止・停止の処分、処分に違反して営業すれば拘禁刑又は罰金の対象になる
  • 食品衛生責任者を決めていない。営業許可の要不要にかかわらず、原則すべての営業者に求められる
  • 認証を取らないと営業できないと思い込む。認証や承認は不要で、営業許可の基準にも衛生管理計画は含まれない

HACCPについて聞かれがちなこと

HACCPとは何の略か

Hazard Analysis and Critical Control Point(危害要因分析重要管理点)の略です。食品の製造や調理の工程で起こりうる危害を分析し、重要な管理点を続けて監視する衛生管理の手法で、1960年代の米国の宇宙開発の中で作られました。

中央線沿線の個人経営店もHACCP対応が必要か

必要です。原則すべての食品等事業者が対象で、飲食店営業や喫茶店営業は規模にかかわらず「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に当たります。業界団体が作成し厚生労働省が内容を確認した手引書を参考に、衛生管理計画を作って実施し、記録を残します。

HACCP対応を怠るとすぐに営業停止になるのか

厚生労働省のQ&Aでは、最初に改善のための行政指導が行われ、従わない場合に改善が認められるまでの間、営業の禁止・停止などの行政処分が行われることがあるとされています。食中毒が発生した場合は直ちに処分がとられることがあります。処分に違反して営業を行うと、食品衛生法第81条で3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金の対象です。

飲食店がHACCP対応でよく記録している内容は何か

衛生管理計画で決めた項目を、確かめて書き留めた記録です。日本食品衛生協会の手引書の概要版には、原材料の受入、冷蔵庫と冷凍庫の庫内温度(冷蔵10℃以下、冷凍−15℃以下の目安)、器具の洗浄、手洗い、メニューごとの確認などが載っていて、1日の最後に記録し、定期的(1か月など)に振り返る形です。細かいところは最新の手引書で確かめてください。

店頭に「HACCP対応」の表示がない店は未対応なのか

そうとは限りません。HACCPに沿った衛生管理は原則すべての事業者に求められていますが、厚生労働省のQ&Aにあるとおり認証や承認の取得は必要ないので、掲示の有無だけで対応の状況は判断できません。

条文の外にあるもの

HACCPは、日々の衛生管理を計画にして記録に残す仕組みです。沿線の個人経営の店もその中にいて、保健所の検査で計画と記録を確認される立場にあります。制度を知っていても味は変わりませんが、厨房の見えないところで毎日続いている作業がある、と知っておくくらいでちょうどいいと思います。

飲食店に関わる決まりは衛生管理のほかにもあります。店内の受動喫煙対策は飲食店の禁煙・分煙の現状、健康増進法と東京都条例の二重構造、メニューに載せる情報の決まりは飲食店のカロリー・栄養成分表示、義務化されない理由と広がる任意表示、レシートに関わる税の制度は飲食店のインボイス制度、簡易インボイスと2026年10月の見直しに書いてあります。

出典

-業界・制度動向